2024.11.22
作家名
2024.11.22
反復する文字が画面全体を覆い、何層も塗り重ねられたbaanai(バーナイ)のアート作品は、コム デ ギャルソン(comme des garcons)などと言ったファッションブランドとのコラボであったり、油彩画への挑戦を通し、さらなる進化を続けています。
近年において、baanai(バーナイ)は、「ARIGATOU GOZAIMASU」を一日も休まず描き続けたらどうなるのか……というアート的実験を行って話題になりました。
一日も休まず描き続けること、まさにbaanai(バーナイ)のアート性の根底に存在しているものは、日々努力すること以外の何物でもなかったのかもしれません。
今回はそんなbaanai(バーナイ)を深堀します。
目次
Baanai(バーナイ)は海外のアーティスト?と思っている方々も多いようですが、彼は日本人の男性です。
経歴に対してあまり詳しいこともわかっていないのですが、彼は湘南の鵠沼で生まれ育ち、サーフィンであったり、グラフィティの影響を受けながら、独自のアートスタイルを築いてきました。
2015年には、コム・デ・ギャルソン(comme des garcons)の川久保玲にポートフォリオを送ったことから、奇跡的に突如、baanai(バーナイ)のアートが開花することになります。
2016年にはコム・デ・ギャルソンのDMや、洋服、ショッピングバッグ、2018年にはパリコレクション(2019春夏コレクション)、2019年にはDMの第一弾アーティストとして積極的に起用されてきました。
また、baanai(バーナイ)は、Artist Network Programをブランドの根幹としているRVCAであったり、Audio-Technica、MINE DENIM、CONVERSESKATEBOARDINGなどにも作品を提供しています。
Baanai(バーナイ)は、小さいころからサーフィンをしながら絵を描く生活をすることができればいいな……という安易な夢をもっていました。
しかし、そんな安易な夢が現実化するのは、ほとんど無理と言ってもいいでしょう。
そんなに世の中は甘くはない。
もっと現実を見据えた生き方をしなさい。
すぐに大人たちはそう言うことでしょう。
そんなことを言われるたびに、baanai(バーナイ)は頭を強打された気持ちになっていたということです。
彼は、アーティストとして名が知られる以前、人生そのものに自信をもつことができないで自殺まで考えたことがあります。
彼には、才能も、学歴も、また、アーティストの位置を決定づけるような受賞歴も一切なく、そこからは何も明るい未来が開ける兆しも感じとることができなかったのです。
しかし、baanai(バーナイ)の人生は、コム・デ・ギャルソン(comme des garcons)の川久保玲に作品を送ったことから大きく変化していきます。
Baanai(バーナイ)は、絵を描くことをほとんどあきらめ封印していたこともあります。
しかし、高校の進路を考えなければならないときに、「やっぱり自分は絵をあきらめることができない」という気持ちになります。
再び絵に挑戦しようと思い近所のアトリエに通い始めたものの、それでも高校の教師からは、「君にはアーティストとしての素質は存在しない」と全く評価してもらうことができませんでした。
アトリエで絵の経験を積むものの、才能はなかなか開花する兆しを見せることはありません……。
その後Baanai(バーナイ)は美大の受験にも失敗します。そして、あきらめて就職するのかと言えば就職することもせず、お金がないときだけバイトをしてなんとか食いつなぐ状態でした。
いわゆるプー太郎の生活がbaanai(バーナイ)には何年も続くことになります。
そして、もっと事態は深刻に……。
彼は、仲良くしていた幼馴染を亡くすことになります。幼馴染と最後に会ったとき、2人は言い争いで喧嘩をしてしまっていたため、そのことがどうしても忘れることができない後悔になっていたということです。
さらに、2014年の春、実家が破産してしまうという悲劇に遭遇します。
この出来事によって、より自分自身には未来が存在しない思いが強まり、どこへも行くことができないほど精神的に追い詰められていくことになりました。
手元にあったのはたった3ヶ月分の生活費だけ……。このお金がなくなれば死ぬしかない……と思ったと語っています。
本当に自分自身は生きていくことができないかもしれない……。
そのとき、baanai(バーナイ)は、どうせ死ぬんだったら命がけでアートと向き合って死にたいという気持ちに帰結することになります。
Baanai(バーナイ)が、はじめてコム・デ・ギャルソン青山店へ訪れたとき、今までなかったような激しい衝撃を受けたと言います。
こんな格好のいい場所が存在している驚き。
そして写真でみた川久保玲の、嘘は絶対に通じないであろう真剣な眼差しに対しての驚き。
そのときbaanai(バーナイ)は、どうせ潰れるのなら世界一のものに挑戦して潰れたい……そんな気持ちが高まったのです。
学歴、経歴、受賞歴、そんなものは一切なし。しかし、baanai(バーナイ)には、そのとき作品集としてまとまったファイルがひとつ手元にありました。
作品集としてまとまったファイルを自身であらためて見たとき、「なにかすごいものができたかもしれない」という思いはあったと言います。しかし、それ以外アピールできるものは何もありません。
そこで、彼は、「学歴、経歴、受賞歴、一切ありません。作品だけで判断してください」と言った内容の手紙をファイルに添えて送ったということです。
実際に闇雲にファイル送ったところで、川久保玲がその作品を見てくれる保証は何ひとつある訳ではありません。
しかし……。作品を送ってからたった2日後、川久保玲から即連絡がきます。
自分自身が奈落の底にいるからこそ、縋りつくものが明確になった。
自分自身が駄目だ駄目だと言っている間にも、そちら側に知らず知らずに目を向け、そのスキルは確実に成長していく。であれば、自分には何もないというのも、嘘なのではないか……。
毎日毎日何かと向き合うことで作り出されていくものが本気に値する何かなのではないか。
baanai(バーナイ)は、これ以上存在しない奈落の底にいて、その底の感覚をしっかりつかんだ時には、もう反発するしか方法はなかったのです。
それは、baanai(バーナイ)に存在する無垢の叫びであり、純粋な生きる意欲でした。
奈落だとしても、夢は見ることができ、夢はキラキラ輝いている。
奈落は、Baanai(バーナイ)にある潜在的な無垢を目覚めさせたのです。
そもそもコム・デ・ギャルソンの意味は「少年のように」です。
コム・デ・ギャルソンの川久保玲は、baanai(バーナイ)に内在している子どものような無垢、無邪気さに着眼したのかもしれません。
キャンバスをテーマとなる言葉やモチーフでいっぱいに埋め尽くす。そこに収まったのは、一見大人の既成概念であるのかもしれません。しかし、baanai(バーナイ)のアートは、内面から滲み出すような自由への願望があり、それが画面を超えて宇宙へと解放されていきます。
Baanai(バーナイ)は最初に「CREDERE(クレーデレ)」という言葉を選び、デザイン化しました。「CREDERE(クレーデレ)」は、イタリア語で、「信じる」という意味合いです。
彼は日常に辟易としながらも、少年のような自分によりどころを見つけ、それをただひとつだけ信じたのです。
Baanai(バーナイ)にとってコム・デ・ギャルソンの関係は切り離すことができません。baanai(バーナイ)にどんな才能があったとしても、川久保玲が目を向けなければ、彼は道を大きく踏み外していたことでしょう。
現在、ファッション業界においてアートとの関連性はかなり密接化しています。
イギリスのグラフィックデザイナーPeter SavilleとRAF SIMONSのコラボであったり、スペイン出身の新進気鋭アーティストCoco CapitanとGUCCIなど積極的にコラボも仕掛けられています。
そのとき新進気鋭のアーティストが選ばれることも決して珍しい例ではありません。そして、コムデギャルソンもそんなアーティストと積極的にコラボしているブランドのひとつとして挙げることができます。
イギリス出身のグラフィックデザイナーJamie Reid ・ジェイミーリードは、パンク・ロックバンド「セックス・ピストルズ(SEX PISTOLS)」の仕掛け人でもあり、セックス・ピストルズのほとんどのアートに関わっています。
Jamie Reid ・ジェイミーリードとコムデギャルソンのコラボレーションが発表されたのは2008年秋冬のコレクションでした。
シャツ、パンツ、ジャケットなどと言ったアウターにJamie Reid ・ジェイミーリードのアートをパッチであったりプリントでのせたアイテムが人気です。
また、フランスを拠点に活動する女性アーティストAurélie Mathigot ・オレリーマチゴは、それ程日本で知名度のあるアーティストではないのですが、かぎ針編みアートワークを中心とし、世界各国で個展を開催するアーティストです。
Aurélie Mathigot ・オレリーマチゴがコムデギャルソンとコラボしたのは2015年のことでした。Aurélie Mathigot ・オレリーマチゴのアートの特徴のひとつトロンプルイユ(だまし絵)が表現され、見るものを引き寄せるアートが完成しています。
そして、baanai(バーナイ)です。
前に紹介したアーティスト二名は、コム・デ・ギャルソンと出会う以前から既に名のあるアーティストだったのですが、baanai(バーナイ)との違いは、とにかくbaanai(バーナイ)が無名であったことです。
Baanai(バーナイ)には人が認めるようなこれと言った才能があったわけでもなく、高校では「君が絵で生きていけるとは思えない……」と否定され、絵が好きで通い始めたアトリエにおいても到底評価されることはなく下から二番目の成績の駄目人間でした。
普通に考えれば無名アーティストが採用されるとは到底思うことができないし、労力をかけ送ったとしても川久保玲が目にするとも思えない……。しかし、彼は底辺にいて、何かをしなければならなかったのです。
結果は……。配達証明が届くよりも早く、川久保玲本人から直接電話がかかってきました。
全く無名のアーティストをコム・デ・ギャルソンが起用した代表例です。
その後、アパレルだけではなく、DMであったりショッピングバッグなどにもbaanai(バーナイ)のアートが起用され、今後のコラボレーションも充分期待することができます。
現在、baanai(バーナイ)のアートを所有していて、売却査定して欲しいと思っている方々もいらっしゃることでしょう。
Baanai(バーナイ)の白いキャンバスに縦横無尽に筆を走らせ、隙間なく埋め尽くすカリグラフィカルなアートはとても人気で、売却査定額も高めです。
Baanai(バーナイ)自身が手がけた独自作品は多く、一度に流通できないためニーズがあり高額買取を期待することができます。
いかがでしたでしょうか。今回は、baanai(バーナイ)のアートについて解説しました。
baanai(バーナイ)は、自身を取り巻く環境に対応、様々な文字の形状をまるで近未来のタイポグラフィーのようにキャンバスに埋め尽くす作風が特徴のアーティストです。Baanai(バーナイ)の反復されるデザインは、挫折、底辺からの跳躍、また、さらには海やサーフィンから得たイメージを表現しています。
Baanai(バーナイ)には、自殺しようとすら頭を掠めた暗い過去があります。
しかし、baanai(バーナイ)のアートは、決して暗くはありません。彼は、言葉でそう語っているものの、潜在的には全然絶望的になんかなっておらず、明るい未来を見据えていたのではないかと思えるほどです。
それは彼に存在する子どものような無垢さが、生に縋りついていたからです。
挫折しているけど好きなものがある。それがアートである。アートならば一日一日休まず向き合うことができる。
奈落の底は地面が固く、いったん奈落の底に着地してしまえば、大きく跳躍することもできたのです。
もちろん、川久保玲がbaanai(バーナイ)に慈悲のような救いの手を差し伸べたということではありません。baanai(バーナイ)に輝くような才能があったからこそ、コラボレートできたのです。