2023.11.06

浅野弥衛とは、どんな画家?略歴や作風、作品の特徴や現在の買取価格について解説

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「浅野弥衛(あさの やえ)」という画家についてご存じでしょうか。画面をひっかいた線で描く抽象的でシンプルな作風が特徴的な画家で、油絵や版画などの作品を残しています。線を主体とすることは変わらず、パステル、エッチング、鉛筆など多様な描画材を用いて、生涯その制作活動を続けた画家です。国内外で高く評価され、海外での展覧会にも数多く出品しています。ここでは、浅野弥衛の略歴や作風、買取、取引価格や査定について解説していきます。

略歴

中学卒業後

浅野弥衛は、1914年三重県鈴鹿市に生まれました。神戸中学を卒業と同時に、職業軍人として満州に渡り、終戦まで3度召集されました。浅野弥衛が初めて公募展に自身の作品を出品したのは2度目の帰国のときでした。同時期、帰国の合間を縫って、親交を深めたのが詩人であり、現代美術にも造詣の深かった野田理一です。野田氏が海外の画集や雑誌を読んでいた影響で、抽象美術に興味を持ち始め、自らも絵筆を取り始めます。浅野弥衛は、特定の先生のもとで美術を学んだことはなく、その技法も独学で会得したものですが、そんな彼が唯一先生と呼べたのはこの野田氏でした。浅野弥衛を唯一の師と敬う美術家の伊藤利彦氏は、浅野弥衛は、野田氏による作品に対する批評や感想も大切にしていたようだと述べています。

戦後

終戦後は、鈴鹿信用組合に勤める傍ら、美術文化協会の会員となり、昼はサラリーマン生活を続けながら、制作活動を行っていました。そして、勤務先である信用組合の代表理事にまでなったものの、45歳で退職します。それから、本格的に画家としての活動を始め、制作中心の生活を始めましたが、その名を知られるようになるまでには月日を要しました。

40代後半~

画家としての活動に専念し始めた浅野弥衛の作品は、兵庫県立美術館や富山県立近代美術館の現代美術の展覧会に出品され、浅野弥衛が60代後半にさしかかったころから、徐々に注目を集め、評価され始めました。名古屋や三重県を拠点に活動を続け、毎年個展も開催していました。生涯を通して、鈴鹿の生家で生活しました。

晩年

1985年に名古屋市芸術賞特賞を受賞し、ストックホルムでも個展を開催しました。1987年から1990年にかけては愛知県立芸術大学の客員教授も務め、1990年にはドイツのフランクフルトで開かれた展覧会にも出品しました。こうして、海外の展覧会に出品したり、様々な賞を受賞したりしながら、浅野弥衛という画家は晩年にかけて、その名を知られるようになり、評価も高まっていきました。

81歳のとき、自宅にて脳梗塞で死去しますが、その2年後、東京国立近代美術館、目黒区美術館、三重県立美術館での展覧会にも、彼の作品は出品されています。

戦中を軍人として生き、その後は金融機関に勤めながら絵筆を握り、40代後半で画家としての制作活動に注力した浅野弥衛という画家の生き方は、非常に変化に富み、他の画家と一線を画した人生であると言えるでしょう。しかし、一方でそのような変化に富んだ人生においても、線描という独自のスタイルを追及したという点において、浅野弥衛の画家としてのこだわり、芯の強さが垣間見えます。

線という、一見シンプルなスタイルでありながら、その描き方によって、無限の広がりや可能性、様々な表情を見せる作品が、人々を魅了しているのではないでしょうか。

作風

おもに油絵の具で下地を丹念に塗った画面を引っかき、そこに絵の具を塗り込み、ふきとって線を浮き上がらせるという独特のひっかき技法が特徴的で、線描を追求した画家として知られています。モノクロームの抽象的な作品を多く描いていますが、70年代以降は記号的なイメージや平行線、斜線と色彩の組み合わせも取り入れた作品も制作しました。また、浅野弥衛は、学校に通ったり、特定の師のもとで絵画を学んだりすることなく、独学でその技法を習得し、独自の作風を確立したことも特筆すべき点だと言えます。

また、作品に「無題」や「Untitled」と名付けていることも、浅野弥衛の独自性を表していると言えるかもしれません。

作品の所蔵先

現在、浅野弥衛の作品は、愛知県や三重県の美術館を中心に収蔵されています。浅野弥衛の作品を最も多く収蔵している日本国内の美術館は、三重県三重郡菰野町にあるパラミタミュージアムという私立美術館で、200以上の作品が収蔵されており、2004年には、浅野弥衛展も開かれました。

次に多くの作品を収蔵しているのは、三重県立美術館で、こちらでも1996年に浅野弥衛展が開かれています。また、三重県立美術館では、折に触れ様々な刊行物で浅野弥衛について特集記事などが組まれています。

愛知県豊田市にある豊田市美術館にも多くの作品が収められています。同美術館では2007年に浅野弥衛の特集展示をしたことをきっかけに20点以上の寄贈作品や多くの寄託作品を受け、2017年に浅野弥衛展が開催されています。

その他、東京国立近代美術館や京都国立近代美術館、刈谷市美術館、愛知県美術館、豊橋市美術博物館、和歌山県立近代美術館、碧南市藤井達吉現代美術館などにも浅野弥衛の作品は収蔵されています。

作品の取引価格

浅野弥衛の作品は、その作品の種類によって数万円から数百万円と幅広い価格で取引されています。各オークション情報では、推定落札価格が200,000円から300,000円とされていますが、中には落札価格、数百万円と推定されているものもあり、それらは実際にはそれ以上の価格で取引されていることも推察されます。実際にSBIアートオークションに出品された無題の油彩画の中には、1,500,000円から2,500,000円での落札が推定されていましたが、実際には3,450,000円という高値で落札されたものもありました。アート作品の価格は、その作品の希少性やコレクターの動向、タイミングや取引されるのが国内外かなど、様々な要因によって大きく変動する可能性があるため、買取、査定、売却を検討している方は、様々な選択肢を比較、検討した上で、いくつかの業者に見積もりや査定を依頼することが大切でしょう。

また、インターネットのオークションサイトやフリマアプリでも数万円から数十万円で出品、落札されていますが、価格はその作品のサイズや素材、保存状態の違いにも左右されると思われます。ただ、インターネットオークションやフリマアプリを介しての売買は、作品が本物であるか贋作であるかを見極めることが非常に難しいため、信用できるアートオークションや美術品を専門に取り扱っている業者を通して取引をしたほうが、安全で安心して売買できるのではないでしょうか。

2016年に開催されたSBIオークションでは、1回の開催に7つの浅野弥衛の作品が出品されています。その中で、最も高額で落札されたのは2,760,000円の油彩画です。同回のオークションでは、他にもオイルスティックで描かれた作品が2,070,000円、油彩画が954,500円、という高値で落札されました。

銅版画「ワーク8」

浅野弥衛は1970年代に銅版画も数多く制作していますが、刷られた枚数はごく限られています。「ワーク8」もその一つで、この作品は、手彩色を施されており、販売価格は20万円となっています。

無題

和紙にパステルで描かれた作品には150,000円の値段が付けられています。

「ハムラビ法典No.3」

エッチング1/15のこの作品は、170,000円で販売されています。

無題 No.83

北欧でファインアートやデザインを取り扱うオークションBukowskisに出品された油彩の無題No.83の作品は、120,000SEK(スウェーデンクローナ)、現在のレートにして約1,570,000円で落札されました。

「冬」

第33回SBIアートオークションに出品されたこの作品の推定落札価格は800,000円~1,400,000円となっています。

「桐の木の見える窓」「Work11」

同じく2019年にSBIオークションに出品された、これらエッチング2点の落札価格は51,750円でした。推定落札価格は50,000円〜100,000円とされていました。コンディションが「[1] 額淵に沿ってヤケ跡、マージン部分にシミ、汚れがみられます。[2] 全体に焼け跡、イメージ上中央に縦線の汚れ、点状のシミ、マージン上右側に汚れがみられます。」と記されていることから、あまり保存状態がよくなかったために、価格が抑えられたのかもしれません。

査定のポイント

他の美術作品と同様、作品の保管・保存状態、サインの有無および本物であることは高額査定につながる重要なポイントです。画集や雑誌に掲載されている作品は高値で取引が成立することが多いと言われています。なぜなら、画集に掲載されている作品は、代表作である場合がほとんどであり、真贋の判断材料になることも考えられるためです。場合によっては、プレミアム価格がつく場合もあります。

その他に、浅野弥衛の作品として高値で取引されやすいものの特徴としては、浅野弥衛のシンボルとも言える「ひっかき技法」が用いられていることと、油彩画であることでしょう。また、描写が無数の鋭い線で描かれていれば、本物である可能性も高く、高価買取につながりやすいと考えられます。

浅野弥衛の作品は、抽象的で、モノクロームなものが多く、和風にも洋風にも調和します。抽象的であるがゆえに、時代の変化や流行に左右されず、飽きの来ない作品だと感じられるのではないでしょうか。また、昨今人気の北欧デザインとも親和性があります。これから作品を収集したいと考えている方も、作品を手放したいと考えている方も、まずは信頼できる買取、査定の業者に依頼してみてはいかがでしょうか。



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