2024.11.30
作家名
2024.11.30
「智内兄助」は、愛媛県今治市出の洋画家です。和紙にアクリル絵の具を用いた画法で、日本画と洋画の境界を超えた革新的表現方法を確立しました。「もののあはれ」を基調とした、その独特の繊細で儚げでもある作品は、鑑賞者を魅惑的な世界へ引き込むような独特の魅力を有します。海外でも個展を開いたり、作品のコレクターがいたりする世界的アーティストです。ここではそんな独自の世界観を築き上げたアーティスト、智内兄助について解説していきます。
智内兄助は、1948年に愛媛県今治市で生まれ、東京芸術大学へ進学しました。四国という海に囲まれた大きい島で生まれ育ったことは、智内兄助の心に原風景として刻まれいて、それらが直接作品制作のモチーフになることは多くはないものの、絵を描く中で、随所に島や海、白波など瀬戸内を象徴するようなモチーフを入れたいと感じると語っています。特に、潮のにおいと島桜は、心に強く刻まれていて、絵の制作過程でもそのイメージが頻繁に出てくるそうです。
大学在学中から、さまざまな賞を受賞しており、東京芸術大学大学院を修了後、画家として本格的に活動を開始し始めました。1980年代初め頃から、和紙にアクリル絵の具を用いた独特な画法を確立します。その後、1992年に毎日新聞の連載小説の挿絵を担当したことが、人気のきっかけになったと言われています。この小説は宮尾登美子による「藏」という長編小説で、1992年3月~1993年4月までの約1年間、毎日新聞の朝刊に連載されました。造り酒屋を舞台に、大正から昭和の時代、強い意志で自分の未来を切り開いていく盲目の少女と、彼女を支える叔母が逆境に負けることなく、たくましく生きていく姿を絵描いた小説です。この小説は大変な人気となり、連載後は単行本が上下巻で刊行され、舞台やテレビドラマにもなり、映画化もされました。
2000年代初めには、フランスにおいて2度の個展を開催し、ヨーロッパ屈指の美術コレクターであるロスチャイルド家をはじめ多くのコレクターを魅了しており、特にフランスでの人気は高いようです。日本国内でも、東京や京都、大阪など各地で個展が開催されており、国内外で注目を集めています。
智内兄助の作品の特徴は、ハッチング(線描)技法です。ハッチングとは、西洋で昔から用いられてきた技法で、線を一本一本、縦、横、斜めに重ねていくことでトーンを出していく技法です。これが智内兄助の作品の特徴のひとつです。大きなキャンバスに細い線を重ねながら、描いていくこの技法は、作品の制作に気の遠くなるような膨大な時間を要します。また、和紙にアクリル絵の具で描くという独自の画法を確立し、智内兄助の作品は日本画のようでありながら、洋画のようでもある、独特の幻想的な世界観を生み出しています。
そして、作品制作の基調となっているものは、日本の伝統美です。着物の文様や花鳥風月など日本的なモチーフを「もののあはれ」を感じさせる手法で描いているのが、智内兄助の作品のもうひとつの特徴です。「もののあはれ」とは平安文学を理解する上において、キーワードとされている美的価値観です。物事を見聞きしたときに感じる、しみじみとした情緒や趣、無常観、哀愁です。これは、文学に限らず、日本伝統的な文化や芸術を理解し、日本の美意識を感じる上でも重要な感覚であると言えるでしょう。
智内兄助は、このような技法とモチーフ、その背景にある「もののあはれ」を融合させ、非常に繊細で、儚げでもある独自の作品を生み出しているのです。また、作品の中には、そのタイトルを大胆にキャンバス上に絵の一部のように書いているものもあり、その点も他のアーティストとは一線を画す智内兄助ならではの作風だと言えるでしょう。
智内兄助は作品制作過程において、絵から語りかけられるように、何かが「おりてくる」ことが度々あると言い、そしてそれは毎日絵と真剣に向き合い、精進しているからだと語っています。また、絵の完成、筆を置くタイミングについて、自分自身が「気持良くなった瞬間」であり、そのときは「これ以上やってもその気持ちよさは持続しない」とわかるので、筆を置くのだそうです。そして、その瞬間、ふっと体が軽くなり、自分の魂が抜けていくような感覚を覚えると言います。絵に魂を預けることができると感じるのだそうです。
智内兄助の作品には、女性や少女をモチーフとしたものが多いのですが、近年は自然や鶴をモチーフとした作品も多く制作しており、鶴は人間と違って、表情がない代わりに、翼や脚、目にその表情を読み取ることができ、奥行きがあって面白いと述べています。
また、智内兄助は「技法はボキャブラリーの数」であると述べており、ベースとなるものに技法がなければ、絵は描けないと言い、技法を大切にしている画家です。そして同時にワクワク感、ドキドキ感を大切にしているそうです。自分の絵で、見る人を驚かせたいというワクワク感、子供が日々ワクワクドキドキしながら遊ぶように、自身の持つワクワク感やドキドキ感が素直に伝わるような作品を制作したいと話します。だからこそ、将来の姿や計画を見据えるというよりは、むしろ「なせるがまま」という気持ちで「今」を大切にして日々の制作活動を続けています。
智内兄助は、技法を大切にすると同時に、自分の気持ちに正直に、素直に絵を描き、自身の魂を作品に載せるように描く画家です。智内兄助の作品そのものが、智内兄助自身の心を表しているとも言えるかもしれません。
2023年 「桜満載」に出品(ギャラリーためなが京都/京都)
個展「智内兄助」(ギャラリーためながパリ/フランス・パリ)
アートフェア「artKYOTO2023」出品(京都)
2022年 個展「智内兄助展)(ギャラリーためなが大阪/大阪)
「巴里を魅了する和の作家たちー京都店開廊1周年記念展ー」に出品
(ギャラリーためなが京都/京都)
「今治風景展~みんなが選ぶ今治百景~」に出品
(みなと交流センターはーばりーみなとホール/愛媛県・今治市)
ーこの展覧会では智内兄助と同郷の同級生で、世界的トランペット奏者の近藤等則(こんどう としのり)氏と共同で出版した「ぼくがうまれた音」という絵本の原画が展示されました。
2021年 個展「智内兄助」(ギャラリーためなが東京/東京)
2015年 「智内兄助の原点」(今治城 御金櫓/愛媛県今治市)
2009年 「収蔵品展029」で展示(東京オペラシティアートギャラリー/東京)
2004年 「今日の作家展2004 人間のこころをめぐる表現」に出品
(横浜市民ギャラリー/神奈川県横浜市)
1995年 「智内兄助展」(刈谷市美術館/愛知県刈谷市)
ーこの展覧会は、1992年に手がけた宮尾登美子の小説「藏」の挿絵を中心とした展覧会でした。
智内兄助の作品は、価格が非公開となっているものも多く、詳細な売買価格は個別に問い合わせる必要がありますが、ここに一部、現在、画廊やギャラリーで取り扱われている作品で価格が参照可能なものを紹介します。
「saluation」とはフランス語で「挨拶」、「soleil」は太陽という意味です。そのタイトル通り、2羽の鶴が、向かい合って、羽を大きく広げ挨拶を交わしているような様子が描かれています。鶴の背景には、金色に輝く太陽、さらにその奥には、島が描かれています。40,000ユーロ~45,000ユーロは現在のレートで約6,330,000円~約7,120,000円で、非常に高値がつけられています。
35,000ユーロ~45,000ユーロ
この作品には「しまなみに春のおとずれ」というタイトルがつけられています。海に浮かぶ島々と白波が智内兄助の出身地である愛媛県の今治市と周囲の瀬戸内海をイメージさせます。日本の春を象徴する桜とそのピンク色が美しい作品です。価格は現在のレートで約5,530,000円~約7,120,000円と破格の値がつけられています。
太くどっしりとした八重桜の幹と、花びらが幾重にも重なる八重桜、2羽の蝶が描かれた作品です。幹の下の方には、波を思わせる背景が描かれています。
作品上部輝く金色は、月明かりを彷彿とさせ、その下に女性が平面の満月の上に座って、水の上に浮いているような魅惑的で印象的な作品です。
近年、智内兄助は鶴をモチーフとした作品を多く制作しており、この作品もその一つです。「gigue」とは、17~18世紀にヨーロッパで流行した軽快な舞曲を指す言葉です。鶴が、満月を背景に、滑空する様子が描かれており、非常に勢いを感じる作品です。鶴の周りに描かれている緑や白は、まるで波しぶきを表しているかのようです。作品の中央に近い部分にサインとタイトル、日付が書かれているのも面白い作品です。タイトルはアルファベットに加えてとカタカナで「ジーグ」と表記されています。価格は現在のレートで約2,370,000円〜約3,160,000円です。
ここに挙げた智内兄助の作品は、ほんの一例ですが、どれも非常に高い値段がつけられていることがわかります。
智内兄助の作品は、海外、特にフランスで人気があり、取引もフランスを中心とした海外で多くなされています。日本国内では東京、大阪、京都に画廊を構える「ギャラリーためなが」で個展が開催されたり、作品を取り扱ったりしています。なお、このギャラリーためながはパリにも店舗があります。実際の作品は高価で、入手するのが容易ではないかもしれませんが、リトグラフであれば比較的入手しやすいかもしれません。
売却を検討する場合は、しっかりと情報収集を重ね、適正な価格で査定が行われるよう、複数のギャラリーや美術専門業者に依頼や交渉を行いましょう。弊社でも智内兄助の作品の買取を行っております。智内兄助の作品買取は弊社にお任せください。