2024.05.23
作家名
2024.05.23
「北川宏人」というアーティストについてご存じでしょうか。北川宏人が制作する作品は、立体的な人物像で、スラっとしていて手足が長く、アニメの登場人物のような、近未来的なイメージで、その魅惑的な表情が特徴的です。ここでは、そんな独創的な世界観を持つ作品を制作する注目のアーティスト、北川宏人について解説していきます。
目次
北川宏人は1967年に滋賀県で生まれました。1989年に金沢美術工芸大学彫刻科を卒業し、その翌年、イタリアへ渡ります。そして1998年、イタリアのカラーラ・アカデミア美術学院彫刻科を卒業し、2004年に日本へ帰国しました。
金沢美術工芸大学時代、木彫や石彫などをする中で、一番好きだったのが粘土であり、抽象表現よりも現実世界の形や色を具体的、正確に再現する具象表現の方が好きだったため、具象表現が盛んなイタリアへ渡ることを決意しました。
イタリアへ渡った当初はお金も仕事もなく、言葉も分からず、大変だったと語っています。しかし、何とか仕事を見つけ、学校にも通いながら、制作活動に没頭していました。
そうした生活の中、留学生活6~7年目に、テラコッタが得意な先生に出会い、素材と自分の関わりをそのまま形にできるテラコッタの特殊制作技法に衝撃を受けたことをきっかけに、テラコッタに魅了され、それが現在の作風にもつながっていきました。
14年間のイタリアでの生活を終えて、2004年に帰国し、その後は東京を拠点に個展やグループ展に出展し、制作活動を行っています。東京は、交通の便がよく、イタリア時代の友人が日本へ来たときにも会いやすく、郊外に行けば自然も豊かでいい所だと語っています。
北川宏人は、イタリア留学前にも、大学でテラコッタを扱っていましたが、イタリア留学時代に本格的にテラコッタを使った作品制作に取り組み始めました。テラコッタはブロンズに比べ、廉価で扱いやすいものの、現代美術でそれを用いるのは珍しいことです。一方、イタリアでは、歴史上でも、テラコッタを使っている彫刻家やアーティストは多いと言います。しかし、イタリアでもテラコッタは素材としては知られていても、特に注目されているものではないため、彼はこれまでのアーティストが残した作品とは異なる手法で、テラコッタを表現していきたいと考えました。そこで生まれたのが、テラコッタに赤や青の原色のアクリル絵の具を塗るという、それまで誰もやったことがなかった手法です。成形におけるテクニックより、オリジナリティがあり、自分なりの秩序を持った形体を生み出すことが大切だと考えるところに、北川宏人というアーティストのこだわりがあります。メディアや評論家、コレクターや一般の人々を、今まで目にしたことのないような作品で感動させたいと考えているのです。
北川宏人の作品の大きなテーマは「今どきの日本の若者」です。その代表作として、彼の名前が広く知られる契機ともなった「ニュータイプ」シリーズがあります。あまり努力を見せないで、スマートに出現してくるような現代の若者を、マンガやアニメに登場してくるヒーローのイメージと融合させて作り出したという作品です。その作品で表現される若者は、細身で、手足が長く、近未来的でもあり、アニメの登場人物のようでもあります。さらに、それらの作品は、心に闇や葛藤、疲れを抱え、社会への不安や怒り、絶望を秘めた、一見冷めたようなクールな表情をしています。猫背気味で鬱っぽくも見えます。「ニュータイプ」シリーズは時代の変化の中で、新しい価値観や考え方が生まれ、古いものを打破していくときに生じる摩擦をも突き抜けて行ける若者を表現したものだそうです。
「ニュータイプ」シリーズ以外にも、北川宏人が表現しているのは、一貫して現代の若者です。現代の若者を取り巻く様々な問題、いじめ、引きこもり、ジェンダー、LGBTなど、それらあらゆるものをざっくりと取り上げ、北川氏自身のフィルターを通して表現した作品もあります。そのような作品は、「ニュータイプ」シリーズと異なり、テーマを絞っているわけではないため、人物にもいろいろな表情が見られます。
このように、「今どきの日本の若者」を大きな主題とする作品を制作する背景として、北川氏自身が抱く、日本という国は将来どうなっていくのだろうという、漠然とした日本の未来への希望や不安などがあるようです。自身の世代と全く異なる感性を持った、現在10代、20代の若者が、将来、日本を担っていく世代になったとき、日本をどんな国にしていくのかということに興味を持っているからです。
基本的には欧米化が進んでいる日本で、日本独自の進化を遂げている部分もあり、世界レベルで俯瞰して見ると日本の特殊性という物は際立っており、それも作品を作った上でのテーマになっていると、とあるインタビューでも語っています。
収蔵先
北川宏人の作品は、ギャラリーや個展のほか、国内の以下の美術館でも鑑賞することができます。
北川宏人のオリジナル作品は、大量に流通できないため、評価も高く、査定価格、売却価格も高く設定されやすいです。また、北川宏人の代名詞とも言える「ニュータイプ」シリーズや現代の若者、近未来風の人物像の作品は非常に人気があるため、高値で取引されるようです。また、その価格はサイズによっても左右されます。過去に日本橋高島屋本館で開催された展覧会においては、等身大であれば、数百万円超、50~70センチほどの作品であれば60~100万円程度の値がつけられていたようです。
SBIアートオークションでは、2023年に出品された47センチの陶器に釉薬が施された「TU1402-少女、グレー」という作品は、推定落札価格30万円~50万円に対し、約86万円で落札されました。また同じ回のオークションにて、テラコッタにアクリルの「Striped Shirt」と名付けられた57センチの作品は約44万円で落札されています。
2022年に出品された、高さ47.5センチのテラコッタにアクリルの「作品」には推定落札価格30万円~50万円に対し92万円という高値がつけられています。
2020年に出品されたテラコッタにアクリルの高さ40センチの「コロンナ」という作品は約15万円、高さ47.7センチの「姫川アリサ」は約39万円で落札されました。こちらの「姫川アリサ」のように実在する人物ではないけれども、具体的な名前がつけられた作品もあります。これらの作品は、漠然とした若者を表していた「ニュータイプ」よりも、より鮮明に進化した日本人のかたちを表現したいという北川氏の想いが表現されたものです。
2019年に出された高さ46センチの「TU1402-少女、グレー」は69万円で落札されました。こちらは推定落札価格は20万円~30万円であり、北川宏人というアーティストの注目度、関心度の高さがうかがえます。
北川宏人はアート・フェアにも作品を出品しています。その中に、日本国内最大にして、日本の美術市場をリードする存在でもあるアート・フェア東京があります。このアート・フェアは現代アートから古美術まで、幅広い美術品を紹介していることから、日本だけでなく、世界のディーラーやコレクターの注目を集める存在となっており、2022年の入場者数は42,000人を記録しました。
そんな「アート・フェア東京2005」に出品した際には、自身の作品が何点か売れて、安堵したと語っています。その2年後、同じく「アート・フェア東京2007」では、プレスプレビューの時点で作品は完売状態で、北川氏の接客を待つお客さんが列になって並んでいて、スーパーの特売品のように自分の彫刻が売れていく光景を目にし、信じられない気持ちだったと語っています。アジアにおいて、日本のコンテンポラリーアートが注目を集めていることに加え、海外に比べて日本のアーティストの作品がリーズナブルな価格であることも、需要が伸びている要因ではないかと考えられます。海外からのオファーも増えたり、作品の出店場所が海外にも広がっている一方で、北川氏は作品を制作する上での日本の事象への関心は変わらないだろうとも語っています。
北川宏人の作品の売却、査定価格は、その作品のサイズや保存状態、オークションにおける落札価格とその相場など、さまざまな要因によって変動しますが、高さ12センチと小さめなサイズのテラコッタアクリルの「ミニミニスカー着ぐるみ、メメ」という作品は10万円で売却されています。同じく、別の女の子の頭部分をかたどった作品も10万円で取引されています。40センチを超えるような作品になると、その相場は50万円~100万円に上がるようです。
いずれにしても、テラコッタに彩色を施すという独自のスタイルを持つ北川宏人の作品は、他のアーティストが模倣できるものでなく、そのテーマや彼の持つ世界観、現代とこれからの日本社会を象徴する作品として、今後が期待されるだけに、売却価格や査定相場は、そのときどきのマーケットの需要を注視していく必要があるでしょう。